ピーター・ティールがドナルド・トランプを支持することは驚くべきことではない

Facebookの初期投資家であり、Founders Fundのマネージング・パートナーやPlantirのCo-founderなどを務めるピーター・ティール。彼が、米・共和党の大統領候補であるドナルド・トランプを支持することが明らかになり、話題を呼んでいます。

Facebookのマーク・ザッカーバーグなど、シリコンバレーの大物が、トランプに不快感を示す中、ティールの行動は驚きをもって受け取られていますが、彼のこれまでの言動を考えれば、それほど不自然なことではないとも言えます。

シリコンバレーの大物は反トランプ

先週、共和党候補指名争いからテッド・クルーズ、ジョン・ケーシックが撤退したことから、トランプの指名獲得は現実的なものとなっています。

セクシストであり、差別主義者であるトランプが指名獲得に至ったことは、それ自体が驚きではありますが、シリコンバレーの大物たちはこぞって反トランプの姿勢を見せています。

例えば、有力VC・Andreessen Horowitzmのマーク・アンドリーセンは、「トランプは、ネットのコメント欄が大統領選挙に出るようなもの」と揶揄しています。

Facebookのマークザッカーバーグは、同社のカンファレンスであるF8の基調講演でトランプの台頭に警鐘を鳴らしています

もともと共和党信者のティール

しかしティールのスタンスは異なります。

彼がトランプを支持する理由は、TechCrunchが述べるように、トランプが「型にはまったものを選ばないThielが支持するには、最適なアウトサイダー」だからではないでしょう。

最も大きな前提としては、ティールは元来リバタリアンの立場を示しています。

自由の前提として「社会的公正」の存在を重視するリベラリズムに対して、リバタリアンは「自由」を至上命題としています。(もちろん現在、ロバート・ノージック的な自由至上主義以外にも、リバタリアニズムの地平は非常に押し拡げられていますが)

現在の共和党は、ティーパーティーのような強硬派の影響は小さくなったものの、単純化して考えた時、リバタリアニズムを標榜するティールが、個人の自由を重視する共和党を支持するのは当然のことです。

中でも強硬派を支持

加えてティールは、共和党の中でも強硬派に対する支持を続けてきました。これまで、共和党のロン・ポールやテッド・クルーズなどに資金提供を続けてきたティールですが、この2人は党の中でも極端な立場に位置しています。

まずロン・ポールは、代表的なリバタリアンであり、ティーパーティー運動の当初からのリーダーです。ティーパーティー運動の思想的根拠は、現在でも議論が続いていますが、彼らは概ねオバマ政権の「大きな政府」路線に反対するポピュリスト運動であることで知られています。

ティーパーティーの中には、中絶禁止や同性婚の反対をうたう社会的保守派(ポピュリスト右派)や、増税の反対や財政赤字の批判をおこなう財政保守派(リバタリアン)がいますが、ポールは両者ともに深い関わりを持っています。

またテッド・クルーズは、オバマケアや銃規制に反対な保守派である上に、LGBTや妊娠中絶、障害者権利の擁護にも反対する姿勢を見せています。ISなどのテロリストとイスラム教を同一視して語る姿勢も批判を受けており、こうした点から、ドナルド・トランプに負けず劣らずのセクシスト・差別主義者であるとも言われているのです。

両政治家への支持ばかりではなく、2人への資金拠出をおこなっていることから、ティールが共和党保守派と深いつながりを持っていることは一目瞭然です。

ティールもまた差別主義者・セクシスト?

ではティールもまた、差別主義者でありセクシストなのでしょうか?

ティールの女性差別的な側面は、以前話題になったことがありました。SALONの「Why celebrity “genius” Peter Thiel is grossly overrated」という記事です。ここでは、ティールが2009年に「The Education of a Libertarian」として発表した論文が問題視されており、彼の女性差別的な思想が指摘されています。

とはいえ、この論文については賛否両論があります。実名Q&AサイトQuoraでは、この記述のみでティールをセクシストであると述べるのは難しいだろう、という回答が寄せられています。

しかしながら、ティールが明確にトランプと思想的な共感を抱いている部分もあります。それは、NumbersUSAへの献金です。2008年にティールは、この反移民団体に100万ドルを寄付していますが、同団体の主張には、人種差別的な思想も見え隠れしています。

総合的に考えて、ティールがトランプのようなセクシスト・差別主義者であると “言い切ること” は難しいように思えます。ティール自身はオープンなゲイであり、トランプやクルーズなどが明言する社会的スタンスとは相容れない部分もあるはずだからです。

たしかにティールは、「ポリティカル・コレクトネスこそが、現代政治の最も大きな課題だ」と述べるなど、時おり人権や平等、そして社会的公正に対して論争的な姿勢を見せていますが、この立場がトランプ支持の唯一の論拠であるとは言えないはずです。

逆に言えば、ティールにとって、トランプがセクシスト・差別主義者であることは、彼の評価と関係がないほど、”大した問題ではない” ことの傍証ではありますが。

長年の共和党支持者

ティールがトランプ支持を表明するのは、端的に共和党支持者であるからと言えそうです。

彼は長年にわたって共和党のドナーであり、その中心的な価値観である小さな政府・福祉国家論への反対やアンチ・タックスの信仰者です。

そして彼はまた、こうした価値観を強く推し進めるテッド・クルーズを「非常にスマートであり、高いIQを持っている」と評価するような人物です。クルーズは、同性婚の最高裁判決について「根本的に違法であり、法の根拠がなく、憲法に反する」ものだとしてナチスになぞらえる発言をしていますが、その事実はティールの評価とは無関係なのです。

シリコンバレー=民主党支持者?

シリコンバレーを厚遇するオバマ大統領のイメージが強いことから、ハイテク業界のビリオネアたちは、こぞって民主党支持者であるというイメージが強いかもしれませんが、実際には異なります。

前述のマーク・アンドリーセンは、トランプこそ批判していますが、以前は共和党ミット・ロムニーの支持者でした。AmazonのCEOジェフ・ベゾスは、密かな共和党支持者だと言われており、アンチ・タックスの団体に寄付をしていた過去もあります。

シリコンバレーは決して多様性に開かれたユートピアではなく、裕福な白人男性が多数を占める空間であることはよく知られています。

そこにはセクシズムも存在し、著名VCによるセクハラが問題になることもあれば、政府の監視活動に大小なりとも協力していると思われるPlantirのようなユニコーンが尊敬を集める空間でもあります。GoogleやFacebook、Appleが政府の監視と戦っているパフォーマンスをしたとしても、バックドアを用意している企業は少なからず存在しています。

そのことを考えれば、決してティールの行動は特異なものではありません。

彼が明確にセクシスト・差別主義者であるかは分かりません。しかし自身がドイツ生まれでありながら、移民に対して否定的なスタンスを示し、同性婚を忌み嫌うクルーズのIQを賞賛するティールにとっては、トランプがセクシスト・差別主義者であることは、大きな問題ではないようです。

AUTHOR

石田健

石田健

1989年生まれ。THE MEDIA HACK 編集長。 大学在学中より、企業ブランディングファームに参画して、バイオ系上場企業の案件などを担当。 2011年の早稲田大学在学中に株式会社アトコレを創業。その後、大学院での研究生活を経て、2015年より株式会社マイナースタジオ代表取締役社長。2015年に株式会社メンバーズへ売却。 早稲田大学文学部卒業、政治学研究科修士課程修了(政治学)。