電通は日本のメディアを支配しているのか?

編集部注:本記事は、フランス・メディアで公開された記事「Le publicitaire Dentsu tire-t-il les ficelles des médias japonais ?」の日本語訳である。我々は筆者のマチュー・ゴレーヌ氏より許諾を取り、本記事を翻訳した。

本記事で指摘されている内容は、電通と原子力業界との関係が過度に誇張されているように感じるし、事実に基づいていない見解も少なくない。

しかしながら、東京五輪招致に関する疑惑が高まる中、日本でも電通とメディアの関係について関心が高まっており、その役割を国外メディアがどのように捉えているのか?という一端を理解するべく、本翻訳を公開する次第である。

本プロジェクトは、HACKとSOCIETASによる共同プロジェクト。

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世界第5位のPR企業である電通は、日本の広告市場において重大な影響力を有している。これは日本における報道の自由にとって由々しき事態であり、特に原子力産業について語る場合に顕著である。

よく知られた話がある。参議院選挙の日の夜、元俳優である山本太郎は、型破りの反原発派候補であり、どの党の支援も受けず、Twitterで選挙活動を行ってきたが、東京で参議院議員の議席を獲得した。メディアによる検閲を受けながらも、この著名な熱気ある若い候補は反原子力の、そしてメディアに対してキャンペーンを張り、「スポンサーによって、すなわち電力会社によって買収されている」、「原子力に対して批判的な情報を自動的に規制している」などと主張した。

あるテレビ番組が放送の最後で山本太郎にインタビューを行ったが、最初にジャーナリストが業界への擁護を行った。画面上では、この若い参議院議員は1分しか回答に時間を与えられなかった。

山本太郎は「簡単な例を挙げましょう。これまで食料品は1キロ当たり100ベクレルまでを含有できましたが、これはつまり、食事をしただけで被爆してしまう。このことはテレビでは伝えられていないんです」と述べたが、遮られてしまった。テレビの終わりの音楽が流れる中、司会者は冷笑しながら番組の終了を告げ、画面はコマーシャルへと移り変わった。

日本では文字通り広告があちこちにある。ビラの山、電車や駅にある画面、建物に張られた巨大な広告、道端に流れる音…レストランの便器にすら広告が掲載されている。この広告帝国では、メディアすら例外ではない。

新聞はフランスと同様、大企業が大量の広告を掲載している。だがテレビはもっと顕著だ。

娯楽番組は普通、まずスポンサーの告知から始まる。そして、約5分毎に大量の短い広告が入り、視聴者はしばしば同じスポンサーを目にすることになる。よく考える時間をほとんど与えずに、多くのテレビ番組はパチンコのような番組を提供する。すなわち、けばけばしい色使い、騒音、下品な笑いといった類のものである。

このテレビという巨大なメリーゴーランドは、世界で5番目のメディアグループであり、日本の広告業界1位の電通によって支配されている。ライバルであり、広告業界2番目の地位にある博報堂とともに「電博」とよばれる2大企業は、広告、公共との関係、メディアの監視、日本企業と外国企業、あるいは地方の権力と中央政府の危機管理などを手掛けており、市場の70%近くを独占している。この紛うことなき帝国が、日本のメディアを左右していると指摘する人もいる。

ある数字から電通の重要性がわかる。2015年、電通は70億ユーロ(約930億円)の収益をあげた。  同時期にフランスのパブリシス社が96億ユーロの収益に達したのに続く数字だった。電通の主要な事業はテレビ広告に集中しており、奇抜で類をみないものであった。

例えば、電通は約10年前からソフトバンクの有名な広告である「白戸家」シリーズを開始した。白い犬が父親で、兄がアフリカ系アメリカ人の俳優、家政婦がトミー・リー・ジョーンズを起用しており、他社と一線を画した内容だ。

2013年7月、電通は37億ユーロでイギリスの会社イージス社を買収し、Dentsu Aegisを設立することで海外への拡大に成功した。この海外ネットワークは、140カ国に展開するおよそ10の広告代理店によって成り立っており、日本人が活動を拡大する手助けとなっている。

とりわけデジタルマーケティングにおいてはそうだ。また、国際市場において活動を行っており、それはグループ全体の事業の半分以上(2015年の時点で約54.3%)を占めている。電通は日本での7000人を含む、4万7000人を世界中で雇用している。

電通と原子力に関する情報

日本テレビやフジテレビ、朝日新聞といったメディアも並ぶ汐留というビジネス街に位置する電通タワーは、その印象的な美しさをもって君臨している。

フランスの建築家ジャン・ヌーベルによってデザインされた、軽く湾曲ししたガラスに囲まれた壁は全くいびつな印象を与えない。

中に入ると、電通コミュニケーショングループ部長・河南周作氏が、玄関で微笑みながら迎え入れてくれた。1階部分には、オノ・ヨーコの白いチェスボードなどの現代アートが並んでいる。エレベーターで社員は各階に別れていくが、各部署は厳密に区切られている。

電通は各産業のトップ5までを顧客に持っているが、河南周作氏は「各競合他社のために働いている社員のことを考え、整備された環境」だと強調する。電通は透明な見た目をしているが、そのイメージが見た目ほど滑らかなものかどうかは疑問だ。

2012年に出版された著作の中で、本間龍氏は電通の裏事情や、東京電力(TEPCO)など主要顧客の記事に対するメディアへの偏った圧力などについて記している。本間龍氏も広告業界という宮廷の内幕にいた人物である。

彼は広告マンとして長年勤務しており、業界2位の博報堂で18年間働いた後、詐欺罪で1年間服役していた。同氏は、刑務所での経験や広告マンとしての日々、メディアと交渉してきた彼の経験などを書籍家した。2012年、『電通と原発報道』はほとんどのメディアがそれを取り上げなかったにもかかわらず、数ヶ月間にわたってベストセラーとなった。

本間氏は、避けては通れない仲介業者である電通が、メディアが原発について書くべきことや書くべきではないことが何かを、記者に対して強要し操作する方法について、事細かに記述している。上野駅の喫茶店で行ったインタビューで本間龍氏は、「電通は、特殊な地位を占有しており、日本における原発の広告市場の80%を持っている」と指摘した。

2010年の広告市場において、東京電力は地方企業でありながら、巨大メーカーである三菱重工業に次いで、10番目の広告費を拠出している。それは福島第一原発事故の前年であり、東京電力は200万ユーロの広告費を計上している。また、各地域にある電力会社10社の広告費の合計は、700万ユーロにも達する。

原発に関連する事故が幾つか発生し、原子力に対して人々が懐疑的になってきた1990年からの10年間、東京電力やその他の電力会社は、TVスポットの広告や、ニュースの中でも扱われる宣伝的な特集に対して出稿している。

これらの広告はテレビにおいて、全ての批判を静めるために十分である。大企業は、トークショーや1シーズン番組のスポンサーとなるが、自己検閲が機能することで番組が終了することもある。原発のロビー活動を行う電事連(FEPC)は、時折ドキュメンタリーを製作して、原子力産業の利点を広報する。重要なスポンサーを失う恐れに直面することから、原発反対の不協和音は歓迎されないのだ。

福島第一原発の事故後、山本太郎氏は代償をはらった。それまで長きに渡ってタレントとして活躍してきたものの、原発に対する彼の反対意見を表明したことから、同氏は突然、テレビや映画において、ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからぬ人物)となった。これは今に始まったことではない。反原発の活動家にしてベストセラー作家である広瀬隆や小出裕章といった人々は、テレビ番組に呼ばれることがなく、それは福島の事故以降も続いている。

本間龍氏によって指摘された「メディアの支配」は原発に関わることだけではない。何百万台にものぼるトヨタ自動車のアクセル不備によるリコール事件も、同氏の書籍で言及されている。日本の新聞に事件が掲載されたのは、トヨタの代表取締役がアメリカ議会で謝罪した後であった。

「クライアントのイメージが崩れない様、広告代理店が上手い仕事をしたことは疑う余地がないが、スキャンダルが大きくなりすぎ、海外でも話題になったたため、メディアは事実を隠すことができなくなった」と本間氏は語った。

テレビ朝日の「報道ステーション」は良質な情報を提供し、ときには政府を批判するが、このような番組が増えることはほとんどない。日本の報道番組はほとんどが標準化されており、特定企業についての評判はほとんど扱わず、政府の発表を何の考察もなく中継する。また国際的な出来事については、その関係者に在外邦人が含まれている場合にしか報道しない。

こういった民間メディアの中で、NHKだけは広告帝国に属さず、視聴者から視聴料を徴収し、独立していることを高言できる。しかしながら、残念なことにNHKの状況はより劣悪なものとなっている。籾井勝人会長は、NHKは安倍政権のスポークスマンであるべきだと何のためらいもなく繰り返し明言しているからだ。200人の退職者を前にした最近の発表の中で、同会長は明確に、NHKは九州の地震に関して、当局によって保証された発表を報道すること、そして九州南部で稼働中の発電所に影響するであろう危険について、独立した専門家には質問しないことすら確認したのだ。

報道記者への間接的な圧力

新聞や雑誌などの記者はどうだろうか?電通は現在、共同通信社・時事通信の2社と特別な関係を築いており、2社は歴史的に電通の株主であったが、それは戦前よりこの3社は同じ情報組織を構成していたという歴史的な理由からだ。新聞に対しての情報操作は、TVよりも困難なようだ。新聞において電通は広告出稿しかできないが、紛うことなきアフターサービスをおこなっている。それはメディアの監視や、広告業務を通じた新聞記者への間接的な圧力である。

フランスについて述べるなら、大企業が報道機関を買収して直接的な影響を与えるリスクがあると捉えられる。これに対して日本では、メディアの側で大使役を果たしている広告代理店を通じて、圧力が加わる。本間龍氏は言う。「私は、彼らがどのように圧力をかけるのかをよく理解している。私自身が、博報堂にいた時に同じことをしたからだ。もし工場や発電所などで何かしらの事故が起き、それを新聞が報道した場合、電通が直接的に介入するために報道機関の営業部を訪問する」。怒鳴り声を上げるのではなく、ことは「日本風に」おこなわれる。

「我々は丁寧に、メディアが事件について語る分量を少なくするよう依頼する。一面に掲載しないように、あるいは夕刊に記載するなどして、極力読者の目に触れないように依頼するのだ」。対応した報道機関の営業部は、その内容を直接記事化をおこなう部署へと伝えるのだ。

ジャーナリストは全く知る由もないが、翌日の記事は目立たない場所へと追いやられ、時にはお蔵入りすることにもなる。たとえば、紙幅の都合を理由にして。しかしながら、疑惑は数多くある。本間氏によると、彼の本が出版されると多くの記者が検閲が行われたケースについて確認すべく、本間氏を訪ねてきたという。

「少なくとも、3大新聞社のひとつである毎日新聞で、自動車メーカーが検閲をうまくやったことを知っている」と述べている。原子力発電については、その広告は全国的な週刊誌や日刊の新聞などにも広がっていた。福島第一原発事故の後、それらの広告は掲載されなくなった。しかし、電通にとって新しいビジネスチャンスが現れた。福島産農産物の販売促進である。

テレビや雑誌、駅の広告では2011年より、人気歌手を使って「福島の誇り」、「ふくしまは元気です」というスローガンとともに、桃、米、トマトといった農産物のプロモーションが余すことなく行われた。

すべては電通と、その子会社である電通PRという日本一の広告代理店のサポートによるものであった。「電通PRは、経済産業省(METI)や防衛省、外務省や観光庁などといった複数の省庁のためにも仕事をしている」と電通PRのコミュニケーション部部長・藤井京子氏は説明する。「我々は観光庁の利益ために、タイやマレーシアといった外国のジャーナリストが東北を訪問できるように手配し、この地域が大災害から復興する様子を見せる」のだと言う。環境の放射能を忘れさせるためだろうか?
(2016年6月2日注記:藤井京子氏は当初、これらの訪問は外務省の要請により企画されたと説明していた。)

電通は、東京電力だけでなく経産省や自民党といった公人の2つを顧客として抱えており、原発のプロモーションにおいて特異な地位を占めている。このような状況で、電通は「原子力村」と関係する組織であると捉えられるのではないだろうか?

河南周作氏は電通タワーにある彼の事務所に私たちを招き入れ、この質問に対してはっきりと回答した。

「我々はメディアに対して影響を与える権力は持っていないし、政治活動は行っていない」。しかし、「なぜ電通は、日本の電力会社やフランス電力(EDF)に肩を並べる原子力関連の主要なロビー団体である日本原子力産業協会(JAIF)の会員なのか?」という質問をしたとき、河南周作氏はさらに用心深くなった。

「私はそういった組織を知らない、本当に確かな情報なのか?」そう気まずそうに答えた後、彼はスマートフォンを取り出した。「たしかに我々は会員だった。しかし知ってのとおり、我々は様々な協会のメンバーであり、誰か人を送るように要請し、我々がサインした、それだけのことだ」。

少し間が空いて、彼は加えた。「我々は木製製品協会の会員でもあるんだよ」。明らかに彼は自分の主張に自信を失いつつあったが、ついに彼は打開策を見出した。「ほら、博報堂も会員だよ!」彼は突然大声で言った。ロビー活動に参加しているのが自社だけでないことを知って嬉しいようだった。

2016年、原子力産業広告の復活とテレビキャスターの辞任

本間龍氏によれば、これらのことは原子力産業のプロモーション活動が復活した証である。「博報堂は、2年前から日本原子力産業協会のメンバーである」。本間氏は福島第一原発事故の後に博報堂が関心を示したことに驚きつつ、そう説明した。

この競合社である博報堂は明らかに、原子力の広告という金鉱から何十年ものあいだ距離を取らされた後、福島以降に活発となることが予想される新たな原子力プロモーションというケーキの分け前にありつこうとしているのだ。しかしながら、2011年3月11日の事故以降、完全にこの種の広告は目にしなくなった。東京電力が新聞やテレビなどを通じて謝罪広告を掲示した後、発電所の経営者や建設者は消極的な姿勢を見せ、5年間一切宣伝活動を行わなかった。

しかし、原発の再稼動は数十の法廷行動に阻まれ、高浜原発のように複数の勝利を見た。また、国民の大多数は再稼動にためらいの感情を持っている。原子力の促進は再び重要な争点になった。2015年に一基の発電所が再稼動した後、2016年は原発広告の控えめな再開の年となった。このことは、発電所のある県の地元の新聞やテレビに見て取れる。本間氏は得意げに彼が最近発見した物を見せてくれた。

2016年2月から、福井新聞に関西電力が何度か掲載した全面広告である。この地域では高浜原発が再稼働した1ヵ月後、市民の法廷活動により停止されていた。新潟日報や、その地域のテレビには、世界最大の原発である柏崎、刈羽原発の再稼働に関する東京電力の広告が、ある特殊なコンテクスト下で掲載された。そのコンテクストとはつまり、現在の政府が原子力に強固に反対し、再起動にも反対であるが、今年末には任期満了に伴う選挙があることである。だが、こうした東京電力による原子力の広告の復活は、新潟市民の怒りを呼ばすにはおかなかった。特に福島の避難者は、このような広告を止めるよう求める請願を行った。

こういった広告のメッセージは常に同じで、電通が裏で操作していることを思わせる。電力会社は、原発の安全性を確実にするためになしうる努力をすると約束し、他方で写真には原発作業員を前面に出すことで、その地域ではしばしば雇用が不足しており、福井県に見られるように原子力産業に依存しているというデリケートな琴線に触れる。本間氏によると、こういった広告は氷山の一角でしかない。これらの広告には原子力について公表された全情報の綿密な調査が伴っている。そして、ほぼ確実に、これらの地方紙は反対派に対しては可能な限りわずかな紙幅しか与えない。

国境なき記者団は、先月公開された世界での報道の自由度を調査した報告書において、日本をハンガリーやタンザニアに次いで72位に位置づけた。この国は6年前は11位だったのに。東京を訪問した国連の報告者もまた、民報やNHKで働く日本のジャーナリストにかかる圧力が次第に強まっていると警告している。

問題となっているのは、今年に入って、原子力に関する問題も対象とする特定機密保持法が制定され、政府からの圧力が増していることだ。この法のあらましは明確でなく、「機密」とされる情報を開示した場合、記者は刑務所に入れられることになると脅迫されている。

この前兆として、独立性を評価されていたテレビキャスター3人が今年はじめ、同時に降板を発表された。報道ステーションのキャスター、古舘伊知郎がその中の一人であるが、本間龍氏によば、彼は原子力や安部政権の政治に対して批判的だったことを理由に、数年前から電通の監視下にあった。

電通が大手産業界の使いであることは間違いなく、今後も日本においてメディアのひとつの大きな防壁となる役割を果たし続けるであろう。

AUTHOR

石田健

石田健

1989年生まれ。THE MEDIA HACK 編集長。 大学在学中より、企業ブランディングファームに参画して、バイオ系上場企業の案件などを担当。 2011年の早稲田大学在学中に株式会社アトコレを創業。その後、大学院での研究生活を経て、2015年より株式会社マイナースタジオ代表取締役社長。2015年に株式会社メンバーズへ売却。 早稲田大学文学部卒業、政治学研究科修士課程修了(政治学)。