BuzzFeedがスゴい3つの理由(後編):伝統的メディアと新興メディアが溶け合う狭間で

もはや遠い昔となってしまった、BuzzFeed記事の前編ですが、やっとこさ重い腰を上げて後編を書きます。

前編:http://thehack.jp/56

さて前回の記事では、そもそもBuzzFeedとはどういう企業かをご紹介しました。そして今回は、彼らの「何がスゴいのか」という点について考えてみたいと思います。

とはいっても、彼らの数字的なスゴさは、すでに前回お伝えした通りです。今回ここで考えてみたいのは、より概念的な問題です。

一体なぜBuzzFeedにあれだけの人が集まり、莫大な収益を生み出し、そして巨大な評価額が付くのか?という問題を考えてみたいのです。

まずはじめに、前編の冒頭で触れた結論を振り返ってみましょう。

結論を先取りするならば、彼らのすごさは「バイラルを引き起こすこと」でも、「ネイティブ広告で収益化していること」でもありません。

むしろ、それに注目することで、「日本のバイラルメディアの先駆け」としてBuzzFeedを理解してしまっては、そのイノベーティブなポイントを見誤ってしまうことになるでしょう。

彼らのすごさは、大きく3点あると思います。

1つは、伝統的メディアと新興メディアが溶け合う狭間、その最前線にいること。

もう1つは、彼らをその位置に押し上げている、シェアに関する思想について。

そして最後の1つは、その思想によって定義された”サービス”が、彼らと伝統的メディアとの接近をよりナチュラルなものへと変化させていることです。

ここで上げた3つのポイントを順番に見ていくことが、今回の目的です。

そしてこれらは、日本の数多くの「バイラルメディア」とBuzzFeedの何が違うのか?という問いへの回答にもなっていることでしょう。

バイラルメディア?

先日僕が登壇したイベントで、同じく登壇者の佐藤慶一氏が、冗談交じりにこんなことを語っていました。

BuzzFeedについては、ずっとブログで書いてたが、輸入の仕方を間違えたかもしれませんね(笑)

人々はなぜシェアするのか?という根本的な思想の部分が伝わらず、ソーシャルでバズらせる、という表面的なことだけが話題を呼んだ

これは先ほど記した、彼らのすごさは「バイラルを引き起こすこと」でも、「ネイティブ広告で収益化していること」でもない、という点と関係しています。

実際にBuzzFeedといえば、「バイラル」や「SNSでシェア」というキーワードと共に理解されることが多いようです。

例えば以下のような記事を見ても、一目瞭然です。

(BuzzFeedは)TwitterやFacebookなどのSNSでシェアされやすいニュースを量産することで急成長した。http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1508/18/news053.html

同社内の編集部が制作した独自ニュースやエンターテインメントコンテンツ、ビデオコンテンツを配信しており、ソーシャルメディアからの流入が多いのが特徴だ。http://japan.cnet.com/marketers/news/35069005/

もちろんBuzzFeedを語る上で、「バイラル」や「シェア」といったキーワードは、欠かせません。

しかしそれは、彼らが産み出した結果の1つに過ぎず、単に「ネットでいっぱい読まれる記事をつくれるサイトが、大きな評価を受けている」という理解をしてしまっては、彼らの断片的な理解に留まってしまうのではないかと思います。

むしろ、BuzzFeedのこうした側面のみにフォーカスしてしまうと、彼らをはじめとした新興メディアに関する議論が、例えば「バイラルメディアはゴミか?いや、ゴミじゃない」「多くの人に読まれているんだから、良いんだ」というような、非常に視野狭窄な話題に終始してしまう可能性もあります。

それらの議論が意味がないわけではありませんが、こうした話題が盛り上がることによって、なぜこのタイミングで、BuzzFeedのようなメディアが生まれたのか?という根本的な理解が霞んでしまっては、少しもったいないように思います。

では、バズやシェアではないとすれば、BuzzFeedの一体どこに注目すれば良いのでしょうか?

伝統的メディアと新興メディアが溶け合う狭間で

まずこの問題を考える上で、押さえておきたいのが、最近のBuzzFeedの資金調達です。

前編でも記した通り、BuzzFeedにとっての最新の資金調達は、今月18日にNBCユニバーサルにから、2億ドルもの投資を受けたことでした。これによってBuzzFeedの評価額は、15億ドルにまで達しています。

今回の調達は、単にBuzzFeedにとって、メディアの規模拡大を狙った資金の受け入れではありません。NBCユニバーサルが強調するように、両者が「戦略的パートナーシップを結ぶ」ことが目的なのです。

NBCユニバーサルは、世界的なメディア・コングロマリットの1つです。

もともとはGE(ゼネラル・エレクトリック)傘下のNBCと、フランスのメディア企業ヴィヴェンディによって生まれた企業でしたが、2013年にアメリカのケーブルテレビ大手Comcast(コムキャスト)によって完全子会社化されました。

NBCユニバーサルは合併などによって、生まれた時期こそ新しいものの、間違いなく伝統的メディアの主要プレイヤーです。そんな伝統的メディアが、なぜ新興メディアのBuzzFeedとパートナーシップを結ぶ必要があるのでしょうか。

ケーブルテレビ業界の再編

アメリカにおける、ケーブルテレビや全国ネットTV局の事情は複雑ですが、少なくとも大きな再編の時期に来ていることは、多くの人々が理解しています。

例えば、NBCユニバーサルの親会社であるComcastは、業界第1位の地位にありますが、第2位のタイムワーナーケーブルを買収しようと試みました。結局この450億ドルにも及ぶ買収計画は、規制当局の反対によって実現せず、今年5月には業界第4位のチャーター・コミュニケーションズが、タイムワーナーケーブルを買収しました。

またチャーターは4月に、業界第6位であるブライト・ハウス・ネットワークスを104億ドルで買収しており、業界再編の急先鋒にいると見られています。

こうした業界再編の背景にあるのが、日本でも話題となっているNetflixやHuluなど、動画ストリーミング・サービスの台頭です。

アメリカでは、もともとケーブルテレビの評判がそれほど良くありませんでしたが、若者がPCやスマホで動画を見るようになり、「ケーブルテレビ離れ」がますます加速していると指摘されています。

こうしたケーブルテレビの苦境については、株価にも反映されており、今年の第2四半期決算を経て、軒並みメディア企業が株価下落に直面しました。

http://jp.wsj.com/articles/SB10685294686418064255204581156003932183850

業界再編が進む中で、タイム・ワーナー傘下のHBOやCBS傘下のショウタイムなどは、自らネット配信に乗り出しています。

こうした伝統的メディア企業の苦境とは対照的に、BuzzFeedなどの新興メディアは、ご存知の通り、ミレニアル世代を惹きつけています。

両者の関係は対照的な局面にあり、その前提が「戦略的パートナーシップ」の必要性を生み出しているのです。

動画コンテンツの浸透

では、単に「苦境に陥る伝統的メディア」と「好調な新興メディア」という関係性だけが、現在の状況を呼び起こしているのでしょうか?

新興メディアの視点に立ってみれば、両者の関係を規定している変数は、それだけではないはずです。

今回の「戦略的パートナーシップ」に際してBuzzFeedは、NBCユニバーサルとともに、テレビや映画などの共同制作はもちろん、具体的にはオリンピックを見越してのコンテンツ制作、広告・ブランドの提携をおこなうことを明らかにしています。

巨大な放映権ビジネスとなっているオリンピックに代表されるように、新興メディアは伝統的メディアと組むことで、単独では実現し得なかったビジネス・チャンスに踏み出すことができます。

その具体的な座組が、BuzzFeed Motion Picturesです。彼らは、GIFから長編動画までを扱っていくスタジオになることを明言していますが、NBCユニバーサルの投資によって、ますます彼らの動画クリエイションが加速するでしょう。

このブログでは何度か、テック業界とハリウッドが近くなっていることを指摘しましたが、ハリウッドとの関係で言えば、やはりNBCユニバーサルのような企業と組むことで、享受できる利益も多いはず。両者の提携は、BuzzFeed Motion Pictures の成長を重視するBuzzFeedにとってこそ、願ったり叶ったりだと言えるはずです。

ところで、この前提は「スマホで動画を見る」という文化が定着しない限り、成立し得ないものだったことを忘れてはなりません。

英Guardianが紹介している調査では、2016年の終わりまでに、人々がモバイルで消費する動画は、1日1時間にまで増えるそう。

http://www.theguardian.com/media/2015/jul/31/watching-videos-online-will-soon-take-up-an-hour-a-day-according-to-report

その背景として、スマホの普及とデータ接続の改善が挙げられていますが、逆に言えば、この環境が整備されるまで、スマホで動画を見るという文化は、それほど支配的ではありませんでした。

スマホの普及やデータ接続の改善という、新興メディア単体では如何ともしがたい、マクロ的な変化が起こったからこそ、メディア企業は、新たなコンテンツとして動画に乗り出すことができたわけです。そして、この変化が消費者の行動に新たな変化を起こしつつあり、それは伝統的メディアと新興メディアの境界を曖昧にし始めています。

小括

新興メディアは、決して「伝統的メディアの苦境を救う」ほどの規模には達していません。むしろ現状では、巨大メディア・エンタメ企業と比べて、彼らのインパクトはそれほど大きくないと言って良いかもしれません。

しかし、伝統的メディアと新興メディアが溶け合っていく現状においては、そのことは大きな問題ではありません。両者は戦略的パートナーシップを結ぶことで、相互に利益を享受しようとしているのです。

苦境が見て取れる伝統的メディアと、より規模の大きいビジネスに参入したい新興メディアが手を取り合うことは、一見すると当然の帰結のように見えますが、その規模感の違いや、歩んできた歴史の長さから考えると、驚くべきことです。

スマホが普及し、動画が当たり前のように消費され、そしてソーシャルメディアの興隆によってコンテンツが爆発的に広がる− 新興メディアと伝統的メディアが溶け合う環境が、奇跡的なタイミングで生まれたからこそ、この巨大な変化が生じていると言えるのです。

そしてBuzzFeedは、伝統的メディアと新興メディアの領域が、コンテンツを介して、1つに溶け合っていく時代の流れを適切に把握しながら、最適なカードを切り続けている。

ここに、彼らが驚くべき評価額を獲得している理由の1つがあると言えます。

シェアについての思想

では次に、彼らの2つ目のスゴさについて見てみましょう。冒頭に記した、「彼らをその位置に押し上げている、シェアに関する思想について」です。

これまで、「バイラル」や「シェア」といったキーワードは、彼らが産み出した結果の1つに過ぎないと述べましたが、それは創業者ペレッティの思想とも関係しています。

前編で述べた通りBuzzFeedは、共同創業者ジョン・ジョンソンのマルチメディア・センターで研究されていた「アイデアはいかにしてソーシャルメディアを介して伝播していくか」というテーマから出発したプロジェクトです。

そのことは、日本で理解されているように「バイラルメディア=バズる記事の集まり」という理解と、BuzzFeedが明確に線引きされていることを意味します。

BuzzFeedは、「バズる記事をつくる」という目的に最適化されているのではなく、「記事がどのようにバズるか?」という問いへの回答に最適化されていると言えます。

少し概念的な説明となってしまいましたが、これはどういうことでしょうか?

「バズる記事をつくる」という目的であれば、そのゴールはトラフィックになります。例えば、ネコやエンタメ記事のような記事のみを延々とソーシャルメディアに最適化して配信を続ければ、その目的は達成されるわけです。

これに対して、「記事がどのようにバズるか?という問いへの回答」となれば、トラフィックを最大化させることも必要ですが、同時に、一見するとバズりにくい政治や経済などの話題であっても、それらをソーシャルメディアやネットの文脈に最適化させることで、バズらせることが求められます。

その意味では、BuzzFeedとは「どのようなコンテンツがどのようにシェアされるのか?」という因果関係を追求しているプロジェクトであり、単に「バズらせれば終わり」という結果のみを追い求めるメディアではないのです。

この違いは非常に大きいはずです。

日本でも一時、「感動したらシェア!」「悲しいからシェア!」というコンテンツが横行しましたが、これらはすぐに飽きられていました。シェアされるという結果のみにフォーカスすれば、こうしたコンテンツを量産すれば良いわけですが、これは一時的な盛り上がりで終わります。

しかし、シェアされるプロセス自体を最適化し続けることにフォーカスすれば、それは様々な領域で応用可能です。BuzzFeedが硬派なジャーナリズムに乗り出せるのは、こうしたプロセス全体を理解しているからです。

そのこと自体が強みであることはもちろん、これによって彼らは、多くの後発が追随しはじめても、飽きられないコンテンツを生み出し続けることが可能となり、その差を広げられることが出来ました。

もちろんBuzzFeedがトラフィックを主眼に置いてないとは言いませんし、初期のBuzzFeedがネコやエンタメ記事ばかりを配信していた事実も大切です。

しかし、「コンテンツがソーシャルメディアでシェアされるプロセス全体」を追っているからこそ、彼らは単なる「バイラルメディアの運営企業」から「次世代のメディア企業」として評価を受けていると言えます。

BuzzFeedは、コンテンツ・クリエイションをサービスとして提供

そのことは、ペレッティも強く認識しているはずです。具体的にそのことが伺えたのは、2015年のSXSWです。

彼はここで以下のように語っています。

BuzzFeed doesn’t make a product. We’re a service that keeps getting better at creating content over time.

BuzzFeedはプロダクトをつくっているわけではない。われわれは、コンテンツ・クリエイション能力を日々向上させ、それをサービスとして提供しているのだ

http://techcrunch.com/2015/03/16/a-lot-more-views-than-clicks-out-there/

この発言は、実に示唆的です。

先ほどの言葉を使うならば、BuzzFeedが成功したのは、BuzzFeed.com という巨大なメディアのためではなく、「コンテンツがソーシャルメディアでシェアされるプロセス全体」をサービスとして提供する能力のためです。

このことは後ほど触れる、彼らのネイティブ広告の問題と密接に関わってきますが、ひとまず置いておきます。

感情を基軸にコンテンツを分類する

では、この「コンテンツがソーシャルメディアでシェアされるプロセス全体」において重要なのことはなんでしょうか?その答えは、先ほどのペレッティの講演で触れられていました。

それは「Share Statement」です。この Share Statement とは以下のようなものです。

The “Share Statement” is what BuzzFeed internally calls the words you use to describe things you post on social media, like its articles. Peretti says the “Share Statement is “often more important than the headline” because it’s says why, not just what, they’re sharing.

BuzzFeed内部で「Share Statement」と呼ばれるこの言葉は、人々がソーシャルメディアで記事などをシェアする際に付与する文言だ。ペレッティは、「Share Statement」が記事タイトルよりも重要であると語る。なぜならそれは、記事が単にどんな内容であるかではなく、人々がなぜその記事をシェアしたのかを物語っているからだ。

TwitterやFacebookで、単に記事のURLをシェアするだけの人は、それほど多くありません。人々は、なにかしらのコメントと共にその記事をシェアします。ペレッティによれば、そのコメントは非常に重要な価値を持っているのです。

具体的に、彼らが Share Statement をどのように活用しているかについては明言していませんが、それらがデータ分析や記事の戦略、ソーシャルメディアの最適化に活用されていることは容易に想像できます。

彼らのトップページからも、そのことを伺い知れます。

20150826211445

彼らのサイト上部には、「LOL」「win」「omg」「cute」「fail」「wtf」というアイコンが並んでいます。

「LOL」は日本でいう「www」みたいな感じで、「win=やった!」「omg = まじかよ!」「cute = かわいい」「fail = ミスった」、そして「wtf」は What the Fuck の略で、「なんじゃこりゃ!」みたいな感じです。

通常ここには、ニュースサイトであれば「政治」「経済」「社会」などのカテゴリが並んでいます。しかしBuzzFeedは、ここに感情やリアクションに近い文言を配置し、これによって記事を分類しています。すなわち、感情によってコンテンツを分類しているのです。

このこと1つを取っても、彼らが、コンテンツのシェアにおいて Share Statement を重視していることがわかります。「コンテンツがソーシャルメディアでシェアされるプロセス全体」を理解する上で、人々の感情は重要なファクターであり、それを端的に示すものが Share Statement なのです。

ソーシャルメディアにおいて、人々は感情に基づいてコンテンツを消費

ペレッティはこれまで、ソーシャルメディアにおいて人々は、感情に基づいてコンテンツを消費しているということを何度も強調しています。

「現実社会を反映させつつ、仮想現実のアイデンティティーを維持しながら、人々はソーシャルメディアを利用している」という指摘は、それだけでも社会学的な含意がありそうですが、ペレッティの思想の根底にあります。

http://techcrunch.com/2013/04/29/buzzfeeds-jonah-peretti-explains-if-you-dont-like-cute-animal-pics-hence-buzzfeed-youre-not-human/

端的に言ってしまえば、「ソーシャルメディアに最適化させる」ということは、その空間が感情的なリアクションによって成り立っている場所だからこそ、感情的なコンテンツをつくりだすことに他なりません。

これは一見すると当たり前のことです。例えば、日本でも一時、「感動したらシェア!」「悲しいからシェア!」というコンテンツが横行して、ソーシャルメディアがバイラルメディアだらけになりました。

しかし、そのプロセス全体を理解していることと、結果のみを繰り返すことが、あまりにも大きな差を生み出したことは、周知の通りです。

BuzzFeedやペレッティは、そのことを理解しながら、具体的なサービスにまで落とし込んでいるからこそ、ネコやエンタメコンテンツばかりではなく、ジャーナリズム・コンテンツすらもバイラルさせることができるのです。

小括

これまで見てきた通り、BuzzFeedが巨大なメディア企業として成長し得たのは、単にコンテンツをバイラルさせることに成功したからではありません。

人々がなぜコンテンツをシェアするのか?という問いに対して、ソーシャルメディアが人間の感情と不可分であることを見抜き、それをサービスにまで昇華させたことにあります。

「感情的なコンテンツがバズる!」ということは多くの人が気づいています。しかしながら、最も重要なことは、そのコンテンツにばかりフォーカスしていれば、人々は飽きるという事実です。

後発のプレイヤーとして、次々と「感動したらシェア」「怒りを覚えたらシェア」というコンテンツを量産するバイラルメディアが生まれてきましたが、BuzzFeedは、そもそもこのプロセス自体をサービスとして所有しているため、彼らに追いつかれることはありませんでした。

人々がネコやエンタメ記事のシェアに疲弊しはじめた頃、BuzzFeedはあっという間に、硬派なジャーナリズムへと舵を切りはじめることができたのです。

BuzzFeedのサービス、ネイティブ広告、伝統的メディア

そして最後に、彼らの3つ目のスゴさを見ていきましょう。

このスゴさとは、BuzzFeedという企業が提供するサービスが、ネイティブ広告という収益元に結実し、そのことが彼らをこれまでのウェブにおけるメディア企業から脱却させ、より伝統的なメディア企業との距離を近づけているという点です。

すなわちこれは、1つ目と2つ目のスゴさがどのように結実しているのかという視点で、BuzzFeedを理解することです。

ネイティブ広告

これまでBuzzFeedのスゴさについては、新興メディアと伝統的メディアの境界が溶け合うポジションにいて、人々がコンテンツをシェアするプロセス全体を理解している点にあることをお伝えしてきました。

このことは彼らの収益源である、ネイティブ広告とも密接に関わっています。すでに述べたように、彼らは「バズるコンテンツをつくる」のではなく、どのようなコンテンツであったとしても「バズるプロセス全体を把握」しています。

そのため、それらが猫やエンタメ・コンテンツではない企業によるコンテンツであったとしても、人々の感情を理解し、ソーシャルメディアでの文脈に当てはめることができれば、シェアを生み出すことは可能です。

これはメディアのトラフィックを兎に角増やすことで、そこに広告を出稿してもらうビジネスモデルとは明らかに異なっています。彼らは、言うならば広告自体からデザインをおこなうことで、コンテンツと同様に、シェアされるプロセス全体をつくりあげているのです。

これはおそらく、SnapchatがWPP Agencyらとともに行おうとしていることに似ています。広告のクリエイションから介入することで、その制作・流通プロセスを一手に引き受けるポジションです。

mediahack.hatenablog.com

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「結局、これまでの記事広告と変わらないじゃん」 というツッコミはあると思いますが、これまで見てきたBuzzFeedのポジションを理解すれば、そうした試みすらもユニークネスなものに見えてくるはずです。

ペレッティの述べる、「BuzzFeedはプロダクトをつくっているわけではない。われわれは、コンテンツ・クリエイション能力を日々向上させ、それをサービスとして提供しているのだ」という指摘は、ここに結実します。

すなわちBuzzFeedは、そのメディアとしての規模を売っているのではなく、広告すらもソーシャルメディアを通じて流通させるサービスを売っているのです。

おそらく、既存の記事広告をつくるメディアと決定的に違う部分はここになります。

一時期、「分散型メディア」という言葉が話題になりました。その概念の源流となった記事の1つが、ちょうど1年前のNewYork Timesの記事です。

ここには、こんなことが書かれています。

And the future of BuzzFeed may not even be on BuzzFeed.com. One of the company’s nascent ideas, BuzzFeed Distributed, will be a team of 20 people producing content that lives entirely on other popular platforms, like Tumblr, Instagram or Snapchat.

未来のBuzzFeedは、BuzzFeed.comにはないかもしれない。彼らの初期のアイデアの1つに「分散型BuzzFeed」がある。それは20人ほどのチームが、Tumblr や Instagram、あるいは SnapChat などの人気プラットフォームに依存したコンテンツをつくっていくというものだ。

http://www.nytimes.com/2014/08/11/technology/a-move-to-go-beyond-lists-for-content-at-buzzfeed.html

その後、多くの人が気づき始めましたが、分散型メディアは決して未来の概念ではありませんでした。BuzzFeedはすでに、「こうしたプラットフォームに最適化されたコンテンツをいかにしてつくりだすか」というサービスを提供しているわけで、その意味では、すでに分散型メディアは始まっていたのです。

このことは、BuzzFeedがこれまでのウェブ・メディア企業と違うことを示す証左として語られがちですが、しかし同時に、この思想によって、彼らは逆説的ではありますが、伝統的なメディア企業との接近を可能にしたのです。

伝統的メディア企業との接近

BuzzFeedが、こうした制作から流通までの一貫したサービスの提供に強みを持っている企業であることは、ハリウッドや伝統的メディア企業を惹きつける要因になっています。

なぜなら、これまでのウェブ・メディア企業はコンテンツの制作・流通ともに、伝統的メディア企業と比べて、圧倒的に弱かったからです。

ハリウッドからタレントを調達して、大量の資金によってリッチなコンテンツをつくり、それを世界的な流通網に載せて、一気に回収していくというモデルは、伝統的な企業だからこそなし得たビジネスモデルでした。

ウェブ・メディア企業は、せいぜい新聞や雑誌のようなテキスト・メディアをオンラインで流通させるのみで、その流通網にも限界がありました。

しかしBuzzFeedは違います。

彼らはまずテキスト・コンテンツを用いて、巨大な流通網を開拓することに成功しました。これはFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアが爆発的に普及したという偶然の要素と不可分でしたが、少なくとも、若い世代=ミレニアル世代においては、伝統的なメディア企業を脅かすほどの存在になりました。

彼らはソーシャルメディアというプラットフォーム、すなわち新たな巨大流通網を自ら保有していなくとも、それを自在に扱える知見を保有しているのです。

これが単に、巨大なプロダクト(BuzzFeed.com)をもっているというだけならば、その影響力は一時的なものと見なされていたかもしれません。しかし、彼らはモノばかりではなく、プラットフォームを理解する知見というサービスを保有してることから、仮に、そのプラットフォームに栄枯盛衰があったとしても、新たなサービスの特性を学習し続けることができる可能性が大きいのです。

そしてBuzzFeedは、そのコンテンツ流通能力に、コンテンツ制作能力を加え始めました。その代表格が、すでに述べたBuzzFeed Motion Picturesです。

彼らは、運が良いことに、新たな時代のタレントをハリウッドから調達する必要はなくなり始めました。

Justin Bieberのようにソーシャルメディアを出発として、世界的な人気を獲得するスターもいますが、ソーシャルメディアのみで完結するYouTuberのようなスターも、すでに一般的になり始めたからです。

タレントの調達コストが下がり、動画コンテンツをつくれる環境が、(すでに述べたスマホの普及やデータ通信の改善といった要因によって)劇的に変化したおかげで、BuzzFeed のコンテンツ制作能力は、伝統的メディア企業に近付きつつあります。

もちろん両者の間には、未だに劇的な差異があります。それはすでに述べたオリンピックのような権利ビジネスを思い起こしても、あるいはハリウッドが未だに巨大産業として唯一無二の影響力をもっていることからも明白でしょう。

しかしながら、その伝統的メディアに接近する足がかりを築き、彼らから一目置かれる存在になれたのは、BuzzFeedがウェブ・メディア企業からサービス企業へと脱却したことと無関係ではないはずです。

こうしてBuzzFeedの1つ目のスゴさと2つ目のスゴさは、3つ目のスゴさへと結実していきます。伝統的メディアと新興メディアが溶け合う狭間にいる彼らは、唯一無二のサービス企業へと自らを定義したことで、伝統的メディアを脅かす可能性がある地位にまで辿り着いたのです。

小括

ここまで、BuzzFeedの3つのスゴさを見てきました。BuzzFeedが、偶然のタイミングで絶妙なポジションを手に入れ、その市況環境と時代の変化を理解し、自らのコア・コンピタンスをサービスとして定義したこと。そしてそのサービスが、ついには伝統的メディアが無視できないインパクトを持つにまで至ったことは、彼らの本当のスゴさだと思います。

これらの理由から、彼らが巨大な収益をあげつつあること、そこに莫大な評価額が付与されていることは、現在の市況感を差し引いたとしても、ある程度納得感のあるものに見えるのです。

おわりに

さて、ここまでBuzzFeedのスゴさを見てきましたが、このスゴさは未来永劫続いていくものでしょうか?

すべての企業がそうではないように、彼らもまた常に安泰だとは言えません。むしろ、その競争は激化しつつあります。

ペレッティの古巣であるHuffington Postは、たしかに旧来型のウェブ・メディア企業でした。巨大なトラフィックを集め、それら幾つかのプロダクトをネットワーク化することで広告商品にしていく、という。

しかし彼らも、動画領域や国際展開などを進めていくことによって、変化を模索しています。

ウェブを中心に据えるメディア企業としては、圧倒的なコンテンツ制作能力を有するVICE MEDIAは、BuzzFeedがテレビや映画などに耐えうるコンテンツをつくっていく上でのベンチマークとなるかもしれません。

BuzzFeedとおなじくNBCユニバーサルと戦略的パートナーシップを結んだVox Mediaは、規模としての課題がありつつも、バーティカルにメディアを保有していることから、広告主にとっては魅力的な商品に映る可能性があります。彼らはCMSや広告のクリエイション能力によって、BuzzFeedとは異なり形で、新たなメディア企業を体現しようとしています。

このように、アメリカ国内には数多くの新興メディア企業が勃興しており、それらはいずれも、BuzzFeed と同じように、伝統的メディアと接近することで、影響力を高めようとしています。

Netflixのようなストリーミング・サービスや、買収がひと段落したようにも見えるマルチチャンネル ネットワーク(MCN)にも有力なプレイヤーが数多くひしめいています。

その意味で、BuzzFeedがIPOをおこなった以降も成長を続け、その評価額に匹敵する企業と見なされ続けるかは、まだまだ不透明です。並み居る競合に打ち勝ちながら、彼らのサービスが唯一無二であることを証明し続けることは、容易ではなさそうです。

しかしながら、アメリカのメディア・エンタメ業界が、BuzzFeedをはじめとした数多くのプレイヤーを生み出し続けるほど、ダイナミックに変化していることは事実です。おそらくBuzzFeedのスゴさに陰りが見え始めても、再びそれを凌駕するプレイヤーが、新たな変化をメディア業界に生み出すはずです。

だからこそ、我々は(本記事のタイトルでもある)伝統的メディアと新興メディアが溶け合う狭間での変化に、今後も注目すべきなのです。

その変化は、日本においても十分に示唆的なものであると共に、新たな時代のメディア企業がどのように定義されるか?という大きな問いへの応答を予測する上で、欠かせない判断材料になることでしょう。

AUTHOR

石田健

石田健

1989年生まれ。THE MEDIA HACK 編集長。 大学在学中より、企業ブランディングファームに参画して、バイオ系上場企業の案件などを担当。 2011年の早稲田大学在学中に株式会社アトコレを創業。その後、大学院での研究生活を経て、2015年より株式会社マイナースタジオ代表取締役社長。2015年に株式会社メンバーズへ売却。 早稲田大学文学部卒業、政治学研究科修士課程修了(政治学)。